恵方 歳徳神

恵方は「吉方(えほう)」「兄方(えほう)」「明きの方(あきのかた)」ともいい、「歳徳神(としとくじん)」が在泊する方位です。

 

歳徳神はその年の福徳をつかさどる神様で、歳徳神のいる(在泊する)方位を「明きの方」「恵方」といい万事に吉とするめでたい方角と考えられてきました。



江戸時代に谷川士清(ことすが)が著した辞書・和訓栞(わくんのしおり)に

「としとく、その年の兄方(えほう)を歳徳(としとく)の方といひ、その方に棚をつりて、年神を祭る」

とあります。
歳徳神を祭る棚のことを歳徳棚(恵方棚)といいます。その年の恵方に向かって吊る風習がありました。

「総合日本民俗語彙」には

「エホウ棚 恵方棚 吉方棚 吉方(えほう)すなわち明きの方から、正月の神がおいでになるという信仰から、年棚をその方角に吊る習わしがある」


「年中行事大成」には

「その歳の吉兆の方を兄方(えほう)と称し、家毎にその方に向かひ高く棚をつり、葦索(あしなほ)を飾り供物燈火を献じこれを祭る、凡新年出収物飯物の類は、先づこれを献ず、神仏参詣万事の経営此の方より始む」

とあります。


柳田邦男著「年中行事調査標目」には

丹波の東南部では正月四日、初めて山に入って山神の祭を営み、それから柴一荷を刈って来る。此柴は保存して置いて、特に田植の初の日の飯をたき、それを以て歳徳神に供えるといふ。歳徳神は年の始に祭る神であるが、其際に玄米一俵を俵のまま供えて置いて、之を田植の日の飯米に宛てるのをよいとして居た」

筑前宗像郡の地ノ島では、正月四日の仕事始めの日に、明きの方(あきのかた)に向かって山に入り、焚きものを採って来て之を焚いた。之に由って福を得ると祝したものであらう」

とあります。

新年に恵方の方位にある神社仏閣に参拝し、その年の福徳を祈ることを「恵方参り」「恵方詣で」といいます。

恵方に関する文献に接すると、恵方に向かって巻き寿司をたべる恵方巻丸かぶり寿司)も恵方棚(歳徳棚)、恵方参りあたりからヒントを得て考えられたのかもしれません。

歳徳の清めなるらしけさの雨  芭蕉